Diary.09 - 『星降る夜に』
-七夕特別編-
七夕。
短冊に願い事を書き、笹に吊るすと願いがかなう…
そんな言い伝えのある行事。
多くの冒険者達が根城にしている宿「False Memories」でも例外ではなく、
入り口に一本の笹が立てかけられている。
宿に宿泊する冒険者や通りすがりの一般人などが次々と願いをかけ、
既に笹にはたくさんの短冊が吊るされていた。
夜も更けてきたころ、一人の少女が周りの様子を伺いながら笹へと近づいた。
笹の一番下のほうに一つ、短冊を結ぶ。
少女の手に短冊はもう一つ。
短冊に書いた願い事と笹を交互に見やり、吊るすべきかどうか迷っている。
ギィ…と音を立て、1階の酒場の扉が開く。
慌てて短冊を後ろ手に隠す。
「あれ。世羅ちゃん?」
出てきた金髪の女性が声をかけた。
彼女はセレナ。冒険者家業の傍ら、この宿の手伝いをしている女性だ。
世羅にとっては、和葉の行方を知る数少ない存在でもある。
「こんばんわ、セレナさん」
短冊を後ろ手に隠したまま立ち上がり、頭を下げる。
「七夕だもんね。お願いはちゃんとした?」
こく、と頷いた。
くすっと微笑みながら、セレナが歩み寄ってくる。
「それじゃ、後ろに隠してる物は何かな?」
「え、べ、別に何も隠してなんていませんわ」
セレナが歩み寄るのにあわせ、世羅も一歩ずつ後ろへと下がる。
そんなことを繰り返すうち、世羅の背中が宿の壁に当たった。
隠していた短冊がはらりと舞い落ち、セレナの足元へと落ちる。
「あっ…」
世羅より早く、セレナが拾い上げて願いをチェックする。
「なになに…………ふーん、やっぱりね」
「ちょっと、返してくださいな!」
「ダメでしょ、こんな大事な願い事貼らないなんて」
セレナが踵を返し、楽しそうに笹の方へと駆けて行く。
「あ、待ってください!」
その後を世羅も追う。
「あ、あれ?」
世羅が笹の傍まで戻ってきたが、セレナの姿は無い。
「セレナさん!?何処へ行ったのですか!?」
慌てて辺りを探す。
すると建物の角を曲がってセレナが現れた。脚立を抱えて。
「大きな声出さなくてもここに居るって」
「それは何ですの…」
「脚立。見て分からないかな?」
「何のためにそんなものを…」
「だって大切な願い事じゃない。高いところに貼ってお星様に良く見えるようにしないとね」
そういうとセレナは竹の近くの壁に脚立を立てかけた。
「ほら、世羅ちゃん、支えて」
「あっ、はい」
言われるがまま、脚立を支える。
セレナが脚立を上がり、一番上の部分に短冊を吊るした。
「これで良し、と」
降りてきたセレナは満足げな顔をして頷いた。
「良かったです…って全然良くないです!」
慌てて脚立を登ろうとするが、支える人間が居ないため安定しない。
「ほら、危ないよ?」
バランスを崩して倒れてきた脚立を支えることはせず、
セレナは世羅だけを受け止めた。
がしゃん、と脚立の倒れる音が響き渡る。何事かと宿から数人が顔を出す。
「大丈夫ー、たいしたことじゃないから」
世羅を抱きかかえたまま、笑顔で言う。
その言葉に安心したのか、皆宿の中へと引っ込んでいった。
「…あの、降ろして頂けません?」
「あ、ゴメンゴメン」
そっと世羅を地面へと降ろし、脚立を片付けにかかる。
「願い事、かなうと良いね」
「え…」
「織姫と彦星のようになれるか分からないけど、いつかきっと会えるよ」
「…………」
「さ、もう遅いし中に入ろ?」
セレナは脚立を片付け、宿の戸に手をかけた。
「…織姫と彦星のようになりたくは、ありません」
「え?」
「だって、それじゃ年に一度しか会えないじゃありませんか」
「それも…そうだね」
「…………」
「…きっと、叶うよ」
「……はい」
翌朝。笹は川へと流されていく。
短冊に書かれた皆の願いを乗せて、織姫と彦星の元へ届けとばかりに…。
## Special Thanks:Cellena D. Rayfrost (E-no.93)
## Place:False Memories
## 借りるよって一言だけ声かけて快諾してくれたPLにThanks!