Heat of Battle 多分前編
※ 結果掲載分そのままです
「...お嬢様、本当にやるんですか?」
遺跡外のどこか。
探索者同士の手合わせに使われる訓練場。
世羅と和葉の二人が、そこに居た。
「もちろんですわ。和葉だって、そのままではいるつもりはないのでしょう?」
事の始まりは先日に遡る。
「ただいま、和葉」
「おかえりなさい、お嬢様。晩御飯ができるまではもう少しかかりそうですが...」
「そう、なら手伝いますわ」
遺跡外の住処に戻った際の恒例となりつつある風景。
二人並んで台所に立ち...和葉の横顔を世羅がじっと見つめる。
「...ん?どうかしましたか?」
ぷにっ。
「えっ、ちょっと、どうしたんですか?」
突然頬を突付かれ、和葉が動揺を見せる。
ぷにぷにぷに。
「ちょ、お嬢様っ」
「............和葉。あなた、少し太ったんじゃありません?」
「え...」
和葉も心当たりがまったく無いわけではなかった。
この島に来てしばらく経つ。
意識が戻り、動けるようになるまでに時間が掛かった。
動けるようになってもリハビリが続き、しっかりとした運動をしていた訳でもない。
そして現在も、世羅に美味しい食事を用意するために日々料理の研究に勤しんでいる。
...体重が気にならない方がおかしい。
「...心当たりはあります」
「まったく...。このまま太られても困りますわね。なんとかしないと」
「そうですよね...」
世羅が何かを閃いたようで表情が明るくなる。
「そうね、私のトレーニングに付き合いなさい」
「...え、お嬢様の、ですか?」
「あなたも剣士でしょう。あなたの腕も見たかったですし、丁度良い機会ですわね」
確かに身体を動かすことができ、かつ、鈍った感覚を取り戻すには丁度いい機会。
...だが、主人に剣を向けるということだけが和葉に引っかかる。
「でも、お嬢様に剣を向けるなんて...」
「大丈夫。あくまでトレーニングですから」
「...ですけど...」
まだ和葉は乗り切らない。
「それに、実戦感覚の鈍っているあなたの剣では、私には届きませんわ」
「............なかなか、言ってくれますね。ちょっと傷つきました」
「あら、ごめんなさい。...なら、勝負しましょうか?」
「勝負、ですか?」
「ええ。あなたが動けなくなる前に、私に一撃でも加えることができればあなたの勝ちで良いわ」
「...はぁ」
「せっかくだから、罰ゲームもつけましょうか。そうでないと、本気を出してくれないでしょう?」
「ば、罰ゲームですか!?」
「明日までにちゃんと考えておくこと。いいわね」
「...わ、分かりました...」
結局一晩考えたが思いつかず、決着がついた後に発表するという事で落ち着いた。
そして翌日の朝。現在に至る。
二人が手にしている剣は普段の剣と違い、刃のついていない練習用の剣である。
ただ、十分な重さがあるため当たると痛い。
様々な剣技を使っても耐えうる耐久力も兼ね備えている。
「約束どおり、一撃でも当てる事ができれば僕の勝ちでよろしいんですね?」
「ええ...当てることができれば、ですけれど」
「...頑張ります」
二人は十分な距離を取って構えた。
「それじゃ咲夜、合図をお願い」
薬箱を抱え、丁度良い大きさの岩の上に座る咲夜が小さく頷いた。
「...よーい、はじめ」
こうして、主人と執事の罰ゲームを賭けた練習試合が始まった。
掛け声と共に、和葉が大きく踏み込んで距離を詰めにかかる。
それを見越したかのように、世羅はくるりと横回転を加えながら後ろへとステップを踏む。
そしてその回転の勢いを乗せ、剣を横薙ぎに振るう。
剣閃は風の刃となり、向かってくる和葉へ真っ直ぐ襲い掛かる。
「っ!?」
遠距離からの攻撃は無い、と考えていた和葉は不意を付かれた形となり、慌てて剣を掲げて受け流す。
受け流すことには成功したものの勢いは完全に殺しきれず、バランスを崩して背中から倒れこむ。
「ほら、立ちなさい。...まだ、剣すら触れてないじゃありませんか」
促され、ゆっくりと立ち上がる。
「驚きました。何時の間にそんな技を?」
「あなたが休んでいる間、私も訓練を重ねていたということですわ」
「...そうですか。なら、僕もあの地で身に付けた技をお見せしないといけませんね」
和葉がすっと左手をかざすと、何も無い空間から氷の塊が生まれてくる。
その塊は形を変え、三本のブーメランのような姿を形成する。
「...行けっ!」
合図と共に三本の刃がそれぞれ別の軌道を描き、世羅へと向かう。
「そうでないと面白くありませんわね」
対する世羅は自らの影に剣を突き立てる。
すると影が意思を持ったかのように、同じく三本の刃へと変化して迫り来る氷を叩き折った。
「なるほど、それがお嬢様の得意技ですか」
「!」
迫った剣を、紙一重のところでバックステップで回避する。
和葉は氷の刃を弾幕...あるいは目くらましとして用い、一気に距離を詰めていた。
「...今のは危なかったですわね。ちょっと、油断しすぎましたわ」
「本気を出してくださいと言われましたので...」
「あなたを甘く見てましたわ。...私もこの島での成果を見せないといけませんわね」
二人は剣を構えたまま向き直り、一瞬の静寂が辺りを包んだ。